アラカルター木村久里のガハハと笑って生きる道
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薬酒の効力

薬酒の取材でタレントの岸ユキさんのお宅を訪ねたことがある。ハウスワインリストには梅酒、マタタビ、にんにくなどなんと100本近く。家には20種近く常備していた。

「これを飲むと風邪をひかないわよ」と言われ、グラスに少しずつ試飲。色褪せた新聞紙で包ったビンから取り出された年代ものの梅酒や、スズメバチの入ったお酒など、めったに飲めない“薬酒”という思いから出されるものすべて飲み比べて帰った。

その夜、出版社のクリスマスパーティに出席した。薬酒が効いてきたのか、体がぽっかぽっかする。
2次会に行くころにはジャケットを脱いで、ノースリーブ姿になっても体はほてる。

その夜、家に帰ってどんな寝方をしたのだろうか。薬酒の効果はむなしく消え、翌朝、ほとりは風邪の熱に変わっていた。


秘密のレストラン

日本有数の大テーマパークに関係者だけが入れる秘密のレストランがある。

ある日、そこに友人のT子と招待された。ウェイティングルームに現れたミッキーが、私より若いT子の肩を叩きながらお愛想を振まく姿に、T子は上機嫌だった。

待つこと5、6分、テーブル席に案内された。
ドレスでも着てきたほうがよかったかしらと思うほど、店内は高級ムードが漂っていた。黒服のボーイが現れ、「何かお嫌いなものはありませんか」と聞く。
私はなんでもOKだが、T子は「レーズン」と答えると、ボーイはにっこり微笑んで「今日は大丈夫です」。

ところがデザートにレーズンたっぷり入ったケーキが出てきた。
「何のために聞いたの」とボーイにひと言文句を言いたかったが、この場は他人事といつもになく私は無口を通した。おかげでデザート2人前をものにでき、内心満足して帰った。


ハムはどこへ

北海道の友達からハムと焼豚のセットが送られてきた。

その夜「焼豚を食べたけれどおいしかったわ」とお礼の電話をした。すると「えっ、焼豚?」と驚く。
送ったのは手作りハム、ソーセージのセットだったのだ。

翌日、送ってきたデパートから電話が来て、私が代替する気があるかしつこく聞いてきた。私は手作り品が食べたかったので、替えてもらうことにした。
焼豚を食べた旨を伝えると、それは仕方ないというような言い方をされ、残りのハムは代替品と交換するまで冷蔵庫に入れて置いてほしいと念を押された。

てっきり「ハムはお食べください」と言うのではという期待があったので、ちょっとがっかり。

聞くところでは、そのデパートは業績不振で再建を図っているという。
なるほど、売り上げが落ちるはず。ところで戻したハムはどこに行ったの?


焼肉を食べる仲

焼肉やに行く男女はかなり親しい仲だと言われるが、その意味がわからなかった。

初対面の編集者に打ち合わせが終わるや、焼肉やに誘われた。彼はその日焼肉を食べたかったのだろう。タイミングよく(?)そこに私が現れたというわけか。

焼肉やでの彼の食べっぷりたるや、完全に私を無視したかのように肉をぱくついていた。
肉がすっかり焼けなければいやな私は、半生状態でも平気な彼には勢いで負けてしまう。大半の肉は彼に食べられ、私はごはんとキムチを食べるのみ。
初対面の遠慮から彼の勢いを制して、自分の肉を箸で押さえつけるなんてはしたないまねはできなかった。

「もう食べないの?」と言う彼に、「は、はい」と不本意にも返答。

食いたりない思いから、そのあと親しい男友達を呼び出し、思いっきり焼肉を食べて帰った。


怒りのピクルス

チャリンコを走らせてよく近くの洋酒のディスカウント店にワインを買いに行く。
ある日ピクルスが目に入り「ワインと一緒に食べたらおいしいだろうな」と思い買ってきた。

その夜「さあ、食べましょう」と蓋をひねったら動かない。蓋を叩いても、ガスコンロで蓋を暖めてもビクともしない。近くに蓋を開けてくれる男もいない。
女のひとり身でたかが298円ぐらいのピクルスで、脳の血管が切れて倒れてはまずいとその日はあきらめた。

だが翌日も挑戦したが開かない。しまいになんでこんなものを売るんだと怒りがこみ上げ店に電話をしてしまった。文句をいい、蓋を開けてもらう約束をして電話を切った。

その後、怒りも収まり、どうせ開かないだろうと蓋を何気なくひねってみると、なんとパカッと簡単に開くじゃないか。
なんだ私はピクルスに遊ばれたのかと怒りがぶり返した。


行列のできる店

情報通のK子に“行列のできる店”に誘われた。その人気たるや夜は3ヵ月ぐらい予約がいっぱいで、お昼は朝の10時から店頭で予約受付するが、10時半ぐらいまでに行かないと入れないというからすごい。

順番に名前を呼ばれ店に案内されるのは11時半。
それまで喫茶店で時間をつぶし、なんとか店に入ることができた。

期待が大きすぎたのか、前菜とパスタセット1800円を食べたが、並んでまでというのが素直な感想。

ところが数ヶ月すぎると「なぜあの店が」と思い、再度その店に行った。
今度はメイン料理の入った2800円のセットを頼んだが、期待はずれだった。もうこれで行かないぞと決意。
ところがまた数ヶ月すると「なぜ?」 という疑問が湧き、また行こうという気になる。行列が好奇心をくすぐるのか、好奇心が行列をつくるのか。謎が解けたような気がした。


バイキングづくし

姉親子3人と女だけでタイに出かけた。
旅の楽しみはやはり食べ物。今回の旅行は観光めぐりから食事まですべて用意されたパックツワーで、何が出るかはその場のお楽しみだ。

朝は予想通りバイキングで、味はまずまず合格。
お昼はランチクルージング。船上でのタイ料理のバイキングは、ちょっぴり優雅な気分も味わえて満足した。

その夜は、タイ古典舞踊を見ながらタイ料理を含む世界各国のバイキング料理。根がいやしいせいか、私たち4人はあれもこれもと全種類を皿に盛り食べた。

翌朝はもちろん、その日のお昼も飲茶と種類は違っているがバイキング。私たちのお腹はすっかりブロイラー化し、味覚がミックス状態ですべて同じ味に。
3日目にして旅立つ前に空港で買ったカリカリ小梅が一番おいしく感じてしまったのは、日本人だから?


雪の花見

K代から花見の誘いを受けた。

彼女の片思いの彼が来ると聞き、顔見たさに私の心は躍った。ところが前日から鼻水が出始め体調がよくない。花冷えの季節、風邪をこじらせてはまずいとやむなく断念した。

翌日、雪だった。「これで延期かも」とちょっとうれしく思った矢先に、K代から「今、花見しているんだよー」といつもになくハイな電話が来た。
まさか、と思ったが、この寒い雪の中、男3人に紅一点、公園で熱燗とおでんで宴会真っ盛りというじゃないか。

後日、K代に「あの天気でも花見するなんて、生真面目というか融通が利かないんじゃない」といやみ交じりに言うと、K代は誇らしげに「というか、彼はどんな状態でも楽しもうという気持があるのよね」。

あ〜、彼への恋心が続くかぎり、秋は台風下でのバーベキューも楽しいと言いそうだ。


2度あることは3度

デパートから宅配便が届いた。送り主は前にも書いた北海道の友達だった。
先回、ハムが間違ってきてデパートとすったもんだやったので、今回は違うデパートからだった。

さっそくお礼のメールを出した。私は冗談で「送られてきたのは、うにと甘えびの瓶詰め。間違っているといけないからね」と書いたら、彼女からすぐ返事がきた。

なんとまたもや間違い品。彼女が送ったのはうにの瓶詰め2本セットとのこと。
今回はデパートの対応もスムーズで、代替品を送るから、間違って届いた商品はお食べくださいとのこと。
しかし同じ人から2度も続けて同じことがあるとは。間違い品が届く確率は宝くじに当たるよりいいはず。

2度あることは3度ある。
彼女からの宅配便が届くたびに、これが間違い品であることを密かに期待するようになってしまった。


ソフトクリームの盛り

ソフトクリームの盛りには主観がからむ。
近所のコンビニでよくソフトクリームを買いに行く。そこはオーナーらしきおばさんはシビアに小盛り。なのに「ああ〜、多くいれちゃったわ」なんていうから困ってしまう。

若いバイトの子は比較的大盛りにしてくれる。ダイエットを考えるなら、おばさんがいるときに行くほうがいいのだが、やはり大盛りにされた方が気分がいい。

というわけで若い子がいるのを確認して買うようにした。

その日は若い男だった。内心「ラッキー」と思い注文した。出てきたものを見ると、今までになく盛りが少ない。おばさんの比じゃない。
つい言ってしまった。「これ、少ないんじゃない」と。その男は「すみません」と言ったきり。
「気が利かない、ケチな男だ」と友達に電話で鬱憤晴らしをしたが、考えたらケチはどっちだったのかしら。